この記事を書いた人

日本糖尿病学会専門医、日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約18年医療現場に立つ。
特に糖尿病の分野に力をいれており、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症などの慢性代謝疾患の診療を得意としている。2026年5月に美濃加茂市でクリニックを開業予定。
糖尿病の治療を続ける中で、突然の体調不良に見舞われることは誰にでも起こり得ます。風邪、発熱、下痢、嘔吐など…こうした症状があるとき、糖尿病患者さんには特別な注意が必要です。
この「糖尿病患者さんが何らかの理由で体調不良に陥り十分に食事が摂取できず、通常の血糖管理が難しくなった状態」を専門的には「シックデイ(sick day)」と呼びます。
普段は安定している血糖値も、体調を崩すと一気に乱れることがあります。
適切な対応を知っておくことは、**命を守る対策にもなる**のです。
目次
シックデイとは?
本文「シックデイ」とは、糖尿病患者さんが以下のような体調不良に陥ったときの状態を指します。
- 発熱や風邪
- 嘔吐・下痢・胃腸炎
- 食欲不振・脱水
- 手術前後
- 怪我やストレスが大きいとき
これらの症状があると、体は“ストレス状態”に入り、アドレナリンやコルチゾールといったホルモンが分泌されます。これらは血糖を上げる作用があるため、食事を取っていなくても血糖値が上がるという、普段とは逆の現象が起こります。
なぜシックデイが危険なのか?
高血糖・ケトアシドーシスのリスク
体がストレス状態に陥り、インスリンの分泌不足やインスリンの拮抗ホルモンであるグルカゴンやアドレナリンの分泌過剰が起こると、体がエネルギー源として脂肪を分解し始め、血中にケトン体という酸性物質が増加します。これが「ケトアシドーシス」と呼ばれる状態で、意識障害・昏睡・死に至る可能性もある緊急状態です。
脱水のリスク
嘔吐や下痢で水分が失われると、血液がドロドロになり、血糖値がさらに上昇。腎機能の悪化や心臓に負担がかかります。
低血糖のリスク
食事量が減った状態で、糖尿病の薬をいつも通りに服用してしまうことで、**低血糖に陥ること**があります。
つまり、シックデイは「高血糖」と「低血糖」が同時に起こり得る、非常に不安定な状態なのです。
シックデイにやるべき7つのこと
水分をしっかり摂る
脱水はシックデイ最大のリスクです。目安は1時間にコップ1杯をこまめに。経口補水液(OS-1など)やスープも効果的です。
食事が取れないときも糖分を少し摂る
嘔吐や食欲不振でごはんが食べられない場合でも、ジュース・ゼリー・飴など糖質を含むものを少量ずつ補給しましょう。
薬は勝手に中断しない
「食べてないから薬をやめたほうがいい」と自己判断するのは危険です。薬の種類によっては続ける必要があります。特にインスリンは原則中止してはいけません。
血糖値・体温・体重・尿ケトンを記録
- 食後・寝る前などこまめな血糖測定
- 体温・体重の変化を記録
- 尿ケトン(市販検査紙あり)の確認
症状が悪化する前に医師に連絡
以下の症状があるときは、すぐに医療機関に相談してください。
- 吐き気・嘔吐が8時間以上続く
- 高熱が2日以上続く
- 血糖値が350mg/dLを超えることが続く
- 尿中ケトンが陽性
- 水も飲めない、意識がぼんやりする
安静にして休む
無理をせず、休息を優先しましょう。仕事・家事・運動は控えてください。
家族とシックデイ対策を共有しておく
万一のときに備え、家族や同居者に症状と対処法を伝えておくことも大切です。
シックデイ中に注意すべき薬
薬の種類 | 対応のポイント |
インスリン | 基本的に中止しない(医師に相談を) |
SGLT2阻害薬 | 脱水・ケトアシドーシスのリスク→中止する場合あり |
メトホルミン | 脱水による乳酸アシドーシス予防→中止する場合あり |
SU薬・速効型分泌促進薬 | 食事が十分に取れないときは通常量の半量とするなど、低血糖に配慮した対応が必要 |
薬によって対応が異なるため、「シックデイ時の薬の取り扱い表」を普段から主治医と一緒に作っておくことが安心です。
当院のサポート体制
当クリニックでは、以下の体制でシックデイ対応をサポートしています。
- 症状別・薬別のシックデイ対応指導
- 電話やオンラインでの緊急相談窓口
- 家族や介護者向けの説明資料提供
- インスリン自己注射や血糖測定の継続支援
糖尿病治療の成功は「普段のコントロール」だけでなく、「非常時の対応力」も大きく左右します。
今すぐできるシックデイ対策3つの準備
- 体調不良時の行動マニュアルを作る
- 家庭にスポーツ飲料・ブドウ糖・経口補水液を備えておく
- 主治医と事前に相談して「自分の対応法」を確認しておく
普段はうまくいっているから大丈夫」と思っていませんか?
シックデイは突然やってきます。普段のコントロールが良好な方ほど、油断から対応が遅れることも少なくありません。
「いざ」というときに備えて、正しい知識と準備をしておきましょう。
当クリニックでは、患者さまのライフスタイルに合わせた現実的なシックデイ対策を一緒に考えてまいります。