この記事を書いた人

日本糖尿病学会専門医、日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約18年医療現場に立つ。
特に糖尿病の分野に力をいれており、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症などの慢性代謝疾患の診療を得意としている。2026年5月に美濃加茂市でクリニックを開業予定。

糖尿病の血糖管理では、空腹時の数値だけでなく「食後の血糖上昇」が非常に重要です。近年では、食後1~2時間の血糖値が高い「血糖値スパイク」が動脈硬化や心血管疾患のリスクを高めることがわかってきました。

こうした食後高血糖に特化して作用するのが、「速攻型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)」です。食事直前に服用することで、食後の急な血糖上昇をしっかりと抑えることができます。

グリニド薬とは?

グリニド薬は、スルホニル尿素薬(SU薬)と同様、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促す薬です。ただし、作用の立ち上がりが早く、持続時間が短いため、食後の血糖上昇をピンポイントで抑えるのが特徴です。

代表的な薬剤には以下があります。

一般名商品名用法・特徴
ナテグリニドスターシス作用時間が短い
ミチグリニドグルファスト日本人に多く使われている
レパグリニドシュアポスト作用時間がやや長く、食後高血糖の改善の他に食前血糖値の低下効果も有する

グリニド薬が向いているのはこんな方

  • 食後の血糖値だけが高い(空腹時は正常)
  • 健康診断で「血糖値スパイク」を指摘された
  • 食後に眠気・倦怠感がある
  • 食事は規則正しく取れている
  • 血糖変動を穏やかにしたい

特に食後のだるさや集中力低下に悩む方には、グリニド薬が有効な選択肢となることがあります。

効果と特長

即効性のあるインスリン分泌促進作用

本文グリニド薬は、服用後10〜30分で作用を発揮します。これにより、食後血糖値の急上昇を未然に防ぎ、血糖値スパイクによる血管へのダメージを抑えることができます。

持続時間が短く、副作用が少ない

本文作用時間が短いため、低血糖のリスクも比較的低めです。また、膵臓への負担も少なく済みます。

インスリン注射の前段階としても

血糖変動の程度に応じて、インスリン治療の前にグリニド薬を試すという段階的なアプローチも可能です。

服用時の注意点

グリニド薬は「食直前」に飲むことが大前提です。
以下のような状況では、服用を避けるまたは調整する必要があります。

  • 食事を抜くとき → 必ず服用を中止(低血糖のリスク)
  • 食事の時間が不規則な方 → 安定した服薬スケジュールが難しい
  • インスリンと併用中 → 低血糖リスクあり

また、1日3回の食事に合わせて毎回服用が必要なため、「飲み忘れ」が起こりやすい薬でもあります。

副作用とリスク

低血糖

  • 他の薬(特にインスリン)との併用でリスクが高まる
  • 食事を摂らない状態での服用はNG
  • 軽度の空腹感〜重篤な意識障害まで症状はさまざま

体重増加の可能性

インスリン分泌を促進する薬は、余分な糖を蓄える傾向があるため、体重増加に注意が必要です。

当院での使用方針

当クリニックでは、食後血糖が高く、血糖値スパイクが疑われる方に対して、グリニド薬の使用を以下のように検討しています:

  • 食事内容・時間帯が安定していることを確認
  • 低血糖リスクが低い方を選定
  • 作用のタイミングを生活スタイルに合わせて調整
  • 他薬との併用バランスを考慮し処方
  • 生活習慣指導とセットで導入

また、必要に応じて食後血糖のモニタリングや、持続血糖測定(CGM)を活用して、薬がどのタイミングでどのくらい効果を発揮しているかをチェックしています。

「HbA1cはそれほど高くないけれど、なんとなく調子が悪い」方へ

食後血糖値の急上昇は、糖尿病と診断される前の「予備軍」段階から起こることがあり、動脈硬化の進行や心血管疾患の発症リスクに密接に関わっています。

「最近食後に眠くなる」「集中力が落ちる」「イライラしやすい」など、数値では見えにくい“変化”を感じている方は、血糖値スパイクを抑える治療が助けになるかもしれません。

まずはご相談ください

グリニド薬は、食後血糖の急上昇を抑えることで、血糖値の変動幅を安定させる効果が期待できます。
これにより、体調や集中力、日々のQOLが向上する方も多くおられます。

「HbA1cはそこまで高くないけれど、なんとなく不調が続く」と感じている方は、ぜひ一度当院にご相談ください。あなたの生活スタイルに合った治療法をご提案いたします。