この記事を書いた人

日本糖尿病学会専門医、日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約18年医療現場に立つ。
特に糖尿病の分野に力をいれており、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症などの慢性代謝疾患の診療を得意としている。2026年5月に美濃加茂市でクリニックを開業予定。

運動は、糖尿病治療の柱のひとつです。薬物療法や食事療法と並び、血糖コントロールを安定させるために非常に重要な役割を果たします。

「運動が体にいいのはわかっているけれど、どんな運動をどれくらいすればいいの?」と悩まれる方も多いのではないでしょうか。 このコラムでは、糖尿病の方におすすめの運動やその効果、注意点についてわかりやすく解説します。

運動療法が糖尿病に与える効果

糖尿病における運動の主な効果は以下の通りです。

血糖値の改善

運動をすると、筋肉がブドウ糖をエネルギーとして利用するため、血糖値が下がります。また、インスリンの働きも良くなる(インスリン感受性の向上)ため、糖の代謝がスムーズになります。

体重管理

肥満は2型糖尿病の大きなリスク因子です。有酸素運動を継続することで、体脂肪の減少や筋力の維持につながり、体重コントロールに役立ちます。

血圧・脂質の改善

継続的な運動は、高血圧や脂質異常症の改善にもつながり、動脈硬化の予防になります。これは、糖尿病の合併症予防にも重要なポイントです。

糖尿病患者さんにおすすめの運動

有酸素運動

ウォーキング・軽いジョギング・サイクリング・水中歩行などが代表的です。週に3〜5回、1回30分程度を目安に行いましょう。最初は短時間から始めて、徐々に時間を延ばしていくのが安全です。

筋力トレーニング(レジスタンス運動)

スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操なども効果的です。筋肉量が増えると基礎代謝が上がり、糖の消費量も増加します。週2〜3回程度、無理のない範囲で取り入れましょう。

有酸素運動と併用するとさらに効果が上がります。

バランス運動

ご高齢で筋力トレーニングは難しいという方は、片足立ちやかかと上げなどのバランス運動を取り入れることで、転倒予防や生活機能の維持につながります。

生活の中でできる運動

通勤時に階段を使う、1駅分歩く、家事や掃除をしっかり行うなど、日常生活の中にも運動の機会を増やすことが大切です。

運動療法を行う際の注意点

空腹時・低血糖に注意

特にインスリン治療や血糖降下薬を使用している方は、運動中やその後に低血糖になるリスクがあります。運動前に軽く食事をとったり、ブドウ糖を携帯したりするようにしましょう。

足のケアを忘れずに

糖尿病によって神経障害がある方は、足に小さな傷ができても気づかないことがあります。運動後は足をよく観察し、異常があればすぐに医師に相談してください。

症状があるときは無理をしない

発熱時や体調が優れないとき、心臓や腎臓に合併症がある場合は、必ず主治医と相談して運動を行いましょう。

継続のコツと工夫

運動は「継続」が何よりも大切です。以下のような工夫で無理なく続けられます。

  • 一人で頑張らず、家族や友人と一緒に行う
  • 好きな音楽を聴きながらウォーキングする
  • 運動記録をつけてモチベーション維持
  • 「楽しい」と思える運動を選ぶ

まずは医師にご相談を

運動は糖尿病の管理にとって非常に重要ですが、自己判断で行うとリスクも伴います。当院では、患者さん一人ひとりの体調や生活習慣に合わせた運動指導も行っています。

「最近運動をしていない」「どの運動が自分に合っているかわからない」と感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。安全に、そして効果的に運動を取り入れられるようサポートいたします。