この記事を書いた人

日本糖尿病学会専門医、日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約18年医療現場に立つ。
特に糖尿病の分野に力をいれており、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症などの慢性代謝疾患の診療を得意としている。2026年5月に美濃加茂市でクリニックを開業予定。

手足のしびれ・痛みは糖尿病のサイン?

糖尿病性神経障害は、3つの糖尿病合併症の中で1番起こりやすい合併症です。

高血糖によって手足の神経に異常が起き、足の先や裏、手の指に痛みやしびれなどがあらわれる合併症です。糖尿病が発症してから血糖値が高いままだと早ければ3年ほどで神経障害が起こることがあります。

しびれ、痛み、感覚異常――これらの症状を「年齢のせい」「疲れのせい」と片づけてしまっていませんか?

実はそれ、糖尿病による神経の異常が始まっているサインかもしれません。

糖尿病性神経障害とは?

糖尿病神経障害は、血糖値が高い状態が長期間続くことで、神経がダメージを受けて機能が低下する状態です。

特に影響を受けやすいのが「末梢神経(手足)」や「自律神経(内臓や体温調整を司る神経)」で、全身に多様な症状をもたらします。

この障害はゆっくりと進行するため、気づかないうちに悪化していることが多く、ある日突然歩けなくなったり、足を切断しなければならない事態に至ることもあります。

代表的な3つの神経障害のタイプ

末梢神経障害(もっとも多いタイプ)

  • 手足のしびれ
  • ピリピリ、チクチクするような痛み
  • 熱さ・冷たさの感覚が鈍る
  • 傷ややけどに気づかない

特に「足先」から症状が出始め、左右対称に進行します。

多くの方が「なんとなく足の裏が変な感じ」といった曖昧な不快感から始まり、徐々に痛みや感覚麻痺へと進行していきます。

自律神経障害

  • 立ちくらみ、めまい
  • 胃の不調(胃もたれ、吐き気、早期満腹感)
  • 便秘と下痢を繰り返す
  • 勃起不全(ED)
  • 排尿障害(残尿感、頻尿)

自律神経は血圧や内臓機能など「自分の意思でコントロールできない体の働き」を管理しています。ここに障害が出ると、日常生活に大きな支障を来します。

単神経障害

  • 顔面神経麻痺
  • 外眼筋麻痺(複視)
  • 手首や肘などの局所的なしびれや運動障害

比較的まれですが、突然起こるケースもあり、神経の圧迫などが原因になることもあります。

なぜ糖尿病で神経が傷むのか?

高血糖状態が続くと、神経に栄養を届ける細い血管(毛細血管)が障害され、神経に酸素や栄養が届かなくなります。また、血糖値が高いと神経の代謝そのものが乱れ、有害な物質が神経内に蓄積されてしまうことも神経障害の原因です。

さらに、神経細胞は一度傷つくと回復しにくいため、早期の対応が重要です。

症状をそのままにしておくとどうなる?

  • 感覚が鈍くなり、足の傷ややけどに気づかず感染・壊死
  • 自律神経障害により起立性の低血圧を起こし転倒する
  • 胃腸の機能低下で栄養不足やQOL(生活の質)の低下
  • 勃起不全や頻尿により心身のストレス増加

放っておくと命に関わる合併症(足の切断・心血管疾患)につながるリスクもあるため、早めの対策が欠かせません。

検査・診断方法

当院では以下のような検査を組み合わせて、神経障害の有無や程度を評価します:

  • 問診・症状チェック:しびれの部位、頻度、生活への影響など
  • 腱反射検査:膝やアキレス腱の反射を見る
  • 振動覚・温度感覚テスト:感覚の鈍さを調べる
  • 心電図変化による自律神経機能テスト
  • 血液検査:ビタミン欠乏など他の原因の除外も行います

治療法と生活のポイント

血糖コントロールが最優先

神経障害の進行を防ぐには、血糖値を正常範囲に保つことが何よりも大切です。HbA1cを7.0%未満に保つことが推奨されています。

痛みや不快感への対処薬

  • プレガバリン(リリカ)やデュロキセチン(サインバルタ)などの神経障害性疼痛薬
  • ビタミンB群(特にB12)の補充
  • 漢方薬などの補助療法

足のケア

  • 毎日足を観察する(特に指の間・かかと・足裏)
  • 自宅での軽い足マッサージや血行改善体操

当院の取り組み

当クリニックでは、糖尿病性神経障害の早期発見・進行予防に力を入れています。症状が軽いうちから患者さんの声に耳を傾け、生活習慣・食事・薬物療法の全方位からサポートしています。

必要に応じて、神経内科や皮膚科、整形外科など専門機関との連携も迅速に行っております。

「たかがしびれ」と思わず、まずはご相談を

糖尿病性神経障害は、早期に対応すれば進行を抑えられ、生活の質を守ることができます。逆に「しびれに慣れてしまった」「治らないから…」と諦めると、取り返しのつかない結果になることも。

違和感を感じたら、まずはお気軽にご相談ください。ご自身の足・感覚・内臓機能を守るために、今できる最善の対策を一緒に考えていきましょう。