この記事を書いた人

日本糖尿病学会専門医、日本内科学会認定医の資格を持ち、医師として約18年医療現場に立つ。
特に糖尿病の分野に力をいれており、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症などの慢性代謝疾患の診療を得意としている。2026年5月に美濃加茂市でクリニックを開業予定。

糖尿病網膜症とは?

糖尿病は、血糖値が慢性的に高い状態が続くことで、体のさまざまな臓器に悪影響を及ぼす病気です。中でも「糖尿病網膜症」は、視力に関わる非常に重要な合併症のひとつです。重症化すると失明のリスクがあるため、早期発見・早期治療がとても重要になります。

「網膜」は、カメラでいえばフィルムにあたる部分で、光を感知して映像を脳に送る働きをしています。糖尿病になると、網膜の微細な血管にダメージが蓄積し、出血やむくみ(浮腫)、血管の詰まりなどが起こります。これが「糖尿病網膜症」です。

糖尿病網膜症の進行段階は、主に以下の3つに分類されます:

1. 単純網膜症(初期段階)

毛細血管が傷つき、出血や血管瘤(こぶ)などが見られますが、自覚症状はほとんどありません。

2. 増殖前網膜症(中期)

血管が詰まり、網膜が酸素不足になることで、異常な新生血管を作り始めます。視力低下が起こることもあります。

3. 増殖網膜症(重症期)

異常な新生血管が破れて出血したり、網膜剥離を起こしたりすることで、視力が急激に低下します。最悪の場合、失明に至ることもあります。

こうした進行は非常にゆっくりかつ無症状で進むため、「見えにくい」「目がかすむ」などと感じたときには、すでに重度になっていることも少なくありません。

糖尿病網膜症は、失明の原因第2位

網膜症は、かかっている期間の長さや血糖値の変動によく相関するといわれています。また多くの患者様が診断された時点で、既に網膜症があるともいわれています。

単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症と進行してゆき、最悪の場合、硝子体出血や網膜剥離を来たし失明に至ることが知られています。

現在、日本の失明原因としては緑内障に次いで第2位で、失明人数は年間約3,000人とされています。

糖尿病網膜症になりやすい人の特徴

糖尿病網膜症のリスクを高める要因には以下のようなものがあります:

  • 糖尿病の罹病期間が長い(5年以上)
  • 血糖値(HbA1c)が高く、コントロール不良が続いている
  • 高血圧や脂質異常症を合併している
  • 喫煙習慣がある
  • 妊娠中の女性(妊娠糖尿病を含む)

これらの因子が重なると、網膜の血管が傷みやすくなり、進行も早くなる傾向があります。

失明を防ぐには、眼科検診の受診が最重要

糖尿病網膜症は「自覚症状が出る前の検診」がカギです。

糖尿病と診断された方は、糖尿病歴に関係なく、まずは一度眼科で網膜の検査を受けることをおすすめします。その後は、以下の頻度での受診が推奨されます。

  • 異常がない場合:1年に1回の定期検査
  • 初期病変がある場合:半年〜1年に1回
  • 中〜重度の網膜症がある場合:1〜2ヶ月ごと

当院では、近隣の眼科医と連携して、紹介状の発行・情報共有などをスムーズに行える体制を整えています。ご希望の方には眼科予約のサポートも行っております。

治療法は?薬や手術で視力は守れるのか

進行度に応じて、以下のような治療法が選択されます:

レーザー治療(網膜光凝固術)

出血や血管の異常増殖を防ぐため、網膜にレーザーを照射して治療します。特に増殖前〜増殖期の治療に有効です。

硝子体手術

出血が多かったり、網膜剥離を起こしていたりする場合に行う手術で、進行した網膜症の最後の砦ともいえます。

抗VEGF薬の眼内注射

最近では、黄斑浮腫や血管新生を抑える治療薬も登場しており、視力の回復が期待できるケースもあります。治療法は日々進歩していますが、やはり早期に対応できるほど負担は少なく、視力も守りやすくなります。

目の違和感は「糖尿病が原因かも?」と疑うことから

糖尿病網膜症の自覚症状は次のようなものです:

  • 視界がかすむ、ぼやける
  • 視野の一部が欠けて見える
  • 飛蚊症のような黒い点が見える
  • 夜間の視力低下、まぶしさ
  • 視力が急激に下がった

これらの症状がある場合は、すぐに受診が必要です。特に視力の左右差や急激な視力低下は、眼底出血や網膜剥離の可能性があります。

視力を守るために、今できること

・血糖コントロールを安定させること

・定期的な眼科検診を欠かさないこと

・高血圧・脂質異常・喫煙などの生活習慣にも気を配ること

視力は一度失われると元には戻りません。しかし、早期発見と適切な管理により、進行を抑えることは十分可能です。

当院では、眼科とのスムーズな連携であなたの視力を守ります

当クリニックでは、糖尿病のトータルケアの一環として、眼科との密な連携体制を整えています。紹介状の作成や検査結果の共有、定期的なモニタリングなど、患者さまの目の健康をしっかりとサポートしています。

「最近目が疲れる」「視界がぼやける気がする」といった軽い違和感でも、お気軽にご相談ください。あなたの大切な“視力”を守るために、私たちは全力でサポートいたします。